おうちの中でのんびり過ごす時間が長かった冬が終わり、暖かく過ごしやすい春になりました。春は、新しい出会いがあり、新しいことにチャレンジしようという気持ちになれる季節ということもあり、今年から運動を始めようと思う人がいるかもしれませんね。
今回は、運動をする際に無意識に行ってしまいがちな代償動作についてお話をしたいと思います。
代償動作とは、ある動作が困難なとき、別の動作あるいは他の筋肉で補う動作のことをいいます。運動の場面では、トレーニングをしようとしている筋肉ではなく違う筋肉を使ってトレーニングをしてしまっているということになります。
具体的には、手を前から上げる際に腰が反ってしまうことや、右手を横から上げる際に上げている手とは反対方向の左側に体を倒してしまうことが挙げられます。これは、肩関節の動きの固さを体の動きで代償していることになります。
両手を前に上げる際には、肩関節だけが動いているわけではありません。胸椎の伸展や肩甲骨が動くことで両手を上げることができるようになります。しかし、肩関節や胸椎、肩甲骨の動きが固い、もしくは筋力が弱く上手に動かせない場合に腰椎を伸展させてしまうことがあります。それが、腰を反るという動きになってしまいます。
体全体を使って動かしているのだから体にはいいのでは、と考えてしまいそうですが、代償動作の何が問題になるかというと、本来使うはずの関節や筋肉がうまく使えないために、通常は使わなくてもよい他の関節や筋肉を使ってしまうわけです。それにより、使われない関節や筋肉は固くなったり、弱くなってしまい、過剰に使っている関節や筋肉には負荷がかかってしまうことになります。そのため、目的とする筋肉が鍛えられない、トレーニング効果が低下する、さらにはケガや肩こり、腰痛などの体の不調につながってしまいます。
例えば、先ほど手を上げるためには、肩関節、肩甲骨、胸椎の動きが必要であることをお話ししましたが、それらの関節を動かす筋力が弱く、関節の動きが固くて手をしっかり上げられない人は、運動をする時だけでなく、日常的にも腰を反って手を上げてしまっていることが多いため、腰を必要以上に使用してしまうことで腰痛になってしまう危険性が高くなります。
そのため、みなさんが運動する際には、正しい姿勢(フォーム)で運動をすることが大切になります。鍛えたい筋肉を意識し、正しい動作をすることで目的とする筋肉を鍛えることができ、トレーニングの効果を実感出来るようになれるかと思います。
しかし、リハビリの場面では、その動作が修正できる(修正しなくてはいけない)動作なのか、修正できない動作なのかを判断する必要があります。修正できる動作であれば、代償動作を抑えた運動を指導していきます。また、修正できない動作であれば、杖や補助具などを使用することや環境を整えることで出来ない動作を補い、出来るだけ安全に生活が出来るように支援することも代償動作と考えることができます。このように、すべての代償動作が問題となるわけではありませんので、問題となる代償動作なのか、問題とならない代償動作なのかを判断する必要があります。
利用者様の運動に携わる職員として、その人にとって効果的な運動を指導し、日常生活を体の負担が少なく行えるように、これからもたくさんのことを学んで支援していきたいと思います。
理学療法士 河原崎 慎也