仕事の「両輪」

私は理学療法士という医療系の資格を取得して仕事をしていますが、高校卒業後は大学の文学部に進学し、歴史や文学を勉強していたいわゆる「文系人間」です。大学卒業後の会社員生活を経て、理学療法士の養成校に進学しました。養成校時代に病院での実習があり、そこでレポートを作成するのですが、指導担当の先生から、「情緒的にならず、客観的・科学的な文章を書くように」と指摘されました。私は今もそうですが、患者様のお話をお聞きして、お気持ちやこれまでの人生などに深く思い入れてしまう傾向があります。レポートの文章にも、文系人間の情緒的な感情が見られたのでしょうか。この点には気をつけないといけない、とその後は意識して仕事をしてきました。

そんな私でしたが、少し前のことですが、ある文献を読んでNBM(narrative-basedmedicine)という考え方を知って、はっとさせられました。EBM(evidence-basedmedicine)は広く知られた考え方で、「根拠に基づく医療」と訳され、「エビデンス」という単語も日常的に使われていると思います。これに対し「ナラティブ」とは、「物語」「語り」と訳される単語です。その文献によると、NBMとは、人はそれぞれ自分の「物語」を生きており、病気や障害もまたその物語の一部なのだという考え方で、そうした物語を丁寧に聞き取ろうとする姿勢である、とされています。そしてEBMとNBMは対立概念ではなく、車の両輪のようなもので、エビデンスを駆使して治療法を選んだとしても、それが有効に働くのは患者の物語を丁寧に聞き取った上で適用されてこそであろう、と述べられていました。

私は自分自身が病気や手術で入院した時のことを思い出しました。根拠に基づいた治療や看護をしていだだくのは当然ですが、やはり私自身の思い、希望、家族のこと、仕事のことなどに寄り添って接していただいた先生や看護師さんには本当に助けられました。

NBMという考え方を知って、より積極的に患者様、利用者様の人生の物語に寄り添って仕事をしてもいいんだ、という自信を持てました。物語をお聞きするには、ただ雑談するのではなく、歴史や時代背景、地域の特性、多様な価値観や考え方など多くの知識が必要だと思います。「両輪」を意識して、少しでも患者様、利用者様の助けになり、また自分自身も楽しく成長できるような仕事をしていきたいと思います。

今市Lケアセンター理学療法士相馬幸子