認知症の世界

令和元年となった今年も梅雨の時期となりました。じめじめして嫌だと思う方もいれば、四季の変わり目の美しい一節と感じる方もいることでしょう。同じ事でもとらえ方は人それぞれ、その時々でも変化します。人生経験や置かれた環境、体調などによって「私たちが世界をどう認知するか」は少しずつ違っているはずです。

認知症の症状は中核症状と周辺症状という分け方がされていて、大まかに言えば、思考力や記憶力など脳機能が低下したことによる症状と、そのために環境に適応できなくなった結果の症状です。脳の加齢変化である前者が認知症の本体ですが、ご家族や周りの方々がより困惑してしまうのは後者の方です。他の人にとっては何気ない日常が、認知症の方には異世界のように感じられているため、そこに認知のずれが生じています。

誰でもちょっとしたことを忘れ、何となく不安になった経験はあると思いますが、もし自分が、今何時かここにどうやってきたのかも分からず、体の動きも悪いとなったら、何を思うでしょうか。気落ちしてしまったり、辻褄が合うように話を考えたり、動けるだけ動いてみたりなど様々な反応があると思います。それと多彩な認知症の周辺症状は同じ仕組みで、叱られると理不尽な敵のように感じて、さらに抵抗する可能性が高いでしょう。お薬で一時症状を抑えることはできても、根本的な治療とはなりません。(同じような症状でも、治る病気はありますので、医療機関へ受診はしてください。)

認知症で目立つ周辺症状は「状況や解決策は分からないけど、どうにかしたくてとった行動」だと考えることができます。どのように感じているのかを聞き、味方であることや知りたい情報、望みのためにできることを伝え、寄り添ってあげるのが一番の治療だと思います。伝えてもすぐに忘れてしまったり、できなくなったりはしますが、ご家族、医療・介護サービス、地域の皆で連携して優しく見守りましょう。

あとがき・・・思うように体が動かせるVRでのリハビリテーションをしてみたいものです。

医師 矢尾板 亮